肩が痛い原因と考えられる病気を紹介します。痛みの一時的な対策方法や、受診の目安も合わせて解説します。
肩の疾患の中には四十肩・五十肩と呼ばれるような慢性的で直接の原因が不明瞭なものもありますが、重篤な疾患ではないことを確認するためにも自己診断に頼らず受診を検討しましょう。
本記事の内容は診断ではなく情報提供です。患部の状況や原因は個別に異なるため、整形外科医の診断を受けることをお勧めします。
目次
外傷を受けた後、腕が上がらない:腱板損傷・断裂
腱板は肩甲骨と腕の骨をつなぐ棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋という4つの筋肉からなります。
これらの筋肉が何らかの要因で損傷を受けたり断裂した状態を腱板損傷といいます。
腱板は肩の動きを滑らかにして安定させる役割をはたらきをしています。そのため、これらの筋肉が損傷を受けると、痛みを伴うだけでなく、損傷の程度によっては腕が上がらないなどの症状が現れることがあります。
腱板損傷の原因
スポーツなどで肩をぶつけたり、捻ったりすることで生じます。一方で、加齢や日常的な負荷が要因で発生することもあるため、原因が思い当たらない方も多くいらっしゃいます。
腱板損傷の治療
通常は痛みを抑える薬を飲む薬物療法、筋肉をほぐしたり、鍛えたりする運動療法など、保存療法が用いられます。
重度の場合や保存療法で回復が見られない場合、手術療法が選ばれることもあります。手術では断裂した腱を接合します。
強い力を受けて肩が外れた:外傷性肩関節脱臼
肩の関節の噛み合わせがずれてしまった状態を外傷性肩関節脱臼といい、いわゆる「肩が外れた」状態を指します。
肩関節を脱臼すると激痛で肩を動かすことが困難な状態となり、上腕骨の骨折を伴うこともあります。また、脱臼したことで神経が傷つき、痺れや血行障害を起こすこともあります。
繰り返しやすい肩の疾患で、初めて脱臼した年齢が20歳以下の場合、その後何度も脱臼を繰り返す「反復性肩関節脱臼」になってしまう可能性が80%とも言われています。過去に肩を脱臼したことがある場合は注意が必要です。
また、肩関節の脱臼では、自分の意思で肩の関節を外すことができる「随意性肩関節脱臼」や、体質的に関節が不安定な「動揺性肩関節症」という例もありますが、珍しいケースのため、今回は外傷性について解説します。
外傷性肩関節脱臼の原因
外部からの強い力で、肩の関節が押されたり、ねじれたりすることで、上腕の骨が関節の外に押し出されてしまうことが直接の原因となります。
ラグビーやアメリカンフットボール、柔道、レスリングなどの接触の多いコンタクトスポーツや、スキー・スノーボードの転倒時など内から外に向かって衝撃が加わる場面で発生します。
また、日常生活では、転倒して手を後ろについた時や交通事故などで生じることもあります。
一度脱臼すると関節のストッパー機能が弱まってしまい、より弱い力でも脱臼を起こしやすくなってしまいます。
外傷性肩関節脱臼の治療
まずは肩関節を正しい位置に戻す整復を行います。
レントゲンなどで正しい位置に戻ったことを確認して、三角巾や装具などで3〜4週間ほど固定します。その後、リハビリテーションで肩の動きを改善します。
固定を行っている時期に、無理をして動かしてしまうと脱臼を繰り返しやすくなってしまいます。
特に若い方の場合は、2〜3ヶ月ほどかけてリハビリテーションを行い、元のスポーツへの復帰を図ることもあります。末長くスポーツに取り組むためにも焦らずにリハビリテーションや筋力の復帰を行いましょう。
また、スポーツ選手など早期復帰を目指す必要がある場合などでは、手術を行うこともあります。
受診の目安
骨折を伴っている場合もあり、レントゲン検査を受ける必要があります。また、時間が経つと正しい位置に戻すことが難しくなることがあるので、直ぐに整形外科を受診するようにしましょう。
肩をあげる時、引っ掛かりを感じる:肩峰下インピンジメント症候群
肩をあげるときに、引っ掛かりを感じ、それ以上挙げられなくなってしまう症状を総称してインピンジメント症候群といいます。腱板断裂などもインピンジメント症候群の一種です。
肩の前の方が痛い、投球やバレーボールのスパイク、テニスなどで肩に痛みを感じるなどの症状が現れます。特に外傷の心当たりがない場合が多いことも特徴です。
悪化すると筋力の低下や夜間に痛みを感じることがあります。
肩峰下滑液包と呼ばれる組織が、筋肉や肩の周辺組織の変性などによって肩峰に衝突することによって痛みを感じます。
肩の痛みを発する疾患の中では一般的な疾患と考えられています。
肩峰下インピンジメント症候群の原因
野球の投球動作、テニスのサーブ、バレーボールのスパイクなど、腕を上にあげる機会が多いスポーツをしている人に多く見られます。これらの要因から、「野球肩」と呼ばれることもあります。
また、加齢などの要因によって骨が棘状になった骨棘がある場合にも現れる場合があります。
肩の筋肉の疲労や姿勢不良などが直接の原因と考えられています。肩に関係する筋力のバランスが悪い場合なども原因として挙げられます。
肩峰下インピンジメント症候群の治療
痛みが強い場合には鎮炎症剤などの薬物療法、その後は運動療法を実施します。
治療を続けても改善が見られない場合は、手術も検討されます。
手術では、肩峰の下部を切除する、烏口肩峰靱帯を切り離すことなどが選ばれます。
受診の目安
進行すると腱板の損傷が進行し、日常生活でも肩の痛みを伴うケースがあるため、早めの受診をお勧めします。
理由に心当たりがないが肩が痛い、肩が自由に動かない:肩関節周囲炎
四十肩・五十肩などと一般的に呼ばれている疾患です。
明らかな原因がなく、肩関節に痛みを感じたり、肩が自由に動かない運動制限(拘縮)が生じる場合、肩関節周囲炎と診断されます。
椅子に座っているなど、安静にしているときに痛みを感じる場合や、肩を動かした時に痛みを感じる場合、夜に肩の痛みを感じて寝付けない場合などがあります。
肩関節周囲炎の痛みの原因
肩関節周囲炎は何らかの要因によって、靭帯や腱、関節包、滑液包、骨、軟骨など肩関節を構成する組織に炎症が起きる疾患です。
炎症が起こることで痛みを感じたり、拘縮が生じたりします。
肩関節周囲炎の治療
肩関節周囲炎は一般的に保存療法が用いられています。
保存療法には、炎症を抑える薬を飲む薬物療法や、ストレッチなどの運動を行う運動療法、電気的な刺激や手技による物理療法などが含まれます。
肩からゴリゴリと音が鳴る:変形性肩関節症・変形性肩鎖関節症
変形性肩関節症は、肩関節の軟骨がすり減ることで痛みを感じる疾患です。
動作時に肩に痛みを感じる、肩を動かすとゴリゴリと音がするなどの症状があります。
使用頻度の高い膝関節や股関節などでは軟骨がすり減りやすいと考えられていますが、日常的な負担が膝や股の関節よりは少ないため、膝や股の変形性関節症ほど罹患者数は多くない疾患と考えられています。
変形性肩関節症の原因
腱板障害や脱臼など過去に軟骨や靭帯が損傷を受けたことによって発症することもあります。
また、日常的に肩の負荷の大きいスポーツをしていた場合などにも発生することがあります。
変形性肩関節症の治療
変形性肩関節症は軟骨のすり減りによるものですが、軟骨は血流が乏しい組織で自己治癒があまり期待できない疾患です。
初期段階では服薬・運動などによる保存療法が選ばれます。症状が進行した場合、肩関節を人工関節に置き換える手術療法が選ばれることがあります。
近年では自己由来の成分を注入することで回復を促す再生医療も注目されています。
受診の目安
現在スポーツの習慣がある人や、かつて激しいスポーツをしていた人、肩の疾患の既往歴がある人などは整形外科を受診しましょう。受診の際には、スポーツの経歴なども合わせて説明すると疾患の特定に役立ちます。
まとめ
肩関節の疾患の中には、強い力を受けたことが原因のものや、慢性的なものがあります。重い病気でないことを確かめる意味でも、一度整形外科を受診しましょう。
受診の際は、過去の怪我や、スポーツ・仕事の習慣などを伝えると診断に役立ちます。日常的に服薬している薬のリストなどと合わせて、準備しておきましょう。