太ももの付け根部分や股関節が痛む場合に考えられる病気を症状ごとに解説します。合わせて、それぞれの疾患の原因や治療法も合わせて紹介します。
股関節は歩行に重要な役割を果たしており、疾患によっては寝たきりになってしまうリスクもあります。早期の受診をお勧めします。
本記事の内容は診断ではなく情報提供です。患部の状況や原因は個別に異なるため、整形外科医の診断を受けることをお勧めします。
目次
股関節が痛い:変形性股関節症
股関節が痛む場合、よく見られるのが変形性股関節症です。
股関節は胴体と脚をつなぐ役割をする関節です。実際には胴体の骨盤に、脚の骨の球体状の部分がはまり込むような形になっています。
骨と骨が接触する部分には通常、十分な軟骨がありスムーズに可動する手助けをしています。股関節に負荷がかかると軟骨がすり減ってしまい、骨同士がゴリゴリと擦れてしまうことで痛みを感じます。
この疾患を変形性股関節症といいます。
治療方法やリスクなど、変形性股関節症について、より詳しく解説した記事もありますのでご覧ください。
変形性股関節症の原因
変形性股関節症の直接の原因は軟骨がすり減ることにあります。
変形性股関節症は一次性と二次性に分けられます。
一次性変形性股関節症
直接的な原因のわからない変形性股関節症を一次性といいます。
軟骨がすり減る原因として、加齢や肥満、過度の運動習慣などによって、股関節への大きな負荷が継続的にかかることが挙げられます。
二次性変形性股関節症
原因がわかるものについては二次性に分類されます。
主な要因として、
- 骨盤の凹み部分が通常よりも小さいこと(臼蓋形成不全)
- 結核や骨髄炎などに感染した後
- 関節リウマチ
- 骨壊死疾患
- 代謝性疾患
- 外傷を受けたこと
- 関節内遊離体
などが挙げられます。これらは変形性股関節症との関連性が知られているため、過去に罹患したことがある場合は特に注意が必要です。
変形性股関節症の治療
変形性股関節症の初期段階では、鎮痛剤を飲用する薬物療法や股関節の筋力の向上を図り、負荷を軽減させる運動療法などを行います。これらは手術をしないことから保存療法と総称されます。
薬物療法では痛みを抑えることができますが、軟骨のすり減りの進行を抑えるものではないので、症状は進行し続けます。
変形性股関節症の末期では、痛みが強くなり、歩くことにも支障が生じます。この段階では、股関節を人工のものに置き換える手術を勧められることとなります。
再生医療
近年では自己由来の成分を用いて回復を促進する再生医療やそれに準じる治療が注目されています。
再生医療では、血液や細胞から採取した成分を用いて回復を促します。
詳しくはこちらの記事もご参照ください。
変形性股関節症の受診の目安
軟骨組織のすり減りによる疾患ですが、関節部位は血流が乏しく、自己治癒があまり期待できないことが知られています。
つまり、放っておいて治る見込みは非常に薄い疾患です。また、末期となると手術を避けられないので、早めに受診することをお勧めします。
股関節に痛みを感じた場合には、整形外科を受診するようにしましょう。
股関節が痛い:リウマチ性股関節症
患者様自身の正常な組織に対して、免疫細胞が誤って攻撃を加えてしまう関節リウマチの一種です。
関節内にある滑膜という組織に炎症が生じることで、全身の関節に痛みを生じたり、変形が生じます。
男性よりも女性に発症することが約4倍多いとされています。
全身倦怠感や微熱などの症状が併発する場合や、口が乾くシェーグレン症候群を合併することがあります。
リウマチ性股関節症の原因
リウマチは免疫細胞が誤って正常な組織に攻撃を加えてしまう疾患ですが、なぜそのようなことが生じるのか原因が未だ解明されていません。
リウマチ性股関節症の治療
抗リウマチ薬やステロイドなどの抗炎症作用のある薬を使用する保存療法が取られます。
関節の変形など症状が進行した場合は変形性股関節症などと同じく、人工関節に置き換える手術療法が選ばれます。
リウマチ性股関節症の受診の目安
リウマチの場合はリウマチ科、整形外科、内科などで診療を受けられます。早めに受診しましょう。
股関節が痛い:大腿骨頭壊死症
大腿骨の一部が血流の低下によって壊死してしまう疾患です。厚生労働省による指定難病のうちの一つです。
骨が腐ってしまうわけではなく、血が通わなくなることで、骨の働きを失ってしまった状態です。
骨が壊死することそのものが痛みを発するわけではなく、骨壊死が発生した骨が潰れてしまうことで痛みを生じます。
大腿骨頭壊死症の原因
発症の直接的な原因がわからず、治療方法も確立されていない指定難病のうちの一つで、未だ原因は明らかになっていません。
飲酒の習慣がある場合や、臓器移植などに伴って大量のステロイドを投与されたことがある場合、そうでない人と比べて比較的多く発症すると考えられています。しかし、それらが直接の原因となっているかどうかは明らかになっていません。
大腿骨頭壊死症の治療
壊死してしまった部分の位置や大きさによって、骨が潰れにくいと思われる場合などは、保存療法が選ばれます。痛みが生じる場合には鎮痛剤を使用するなど薬物療法が取られます。
保存療法は痛みを抑えるもので根本的な解決にはなりません。
壊死してしまった骨を再生することは難しく、人工関節に置き換える手術が選択されます。
強い衝撃が加わった後に股関節が痛い:大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部骨折
事故や転倒などによって外から衝撃が加わって脚の骨の上の部分を骨折してしまう疾患です。
股関節部分を骨折してしまうと歩くことが困難になります。
また、同じ大腿骨の骨折であっても、関節包の中にある大腿骨頚部と、関節包の外にある大腿骨転子部の骨折ではその後の治療の見通しに大きな差が生じます。
股関節の骨折は歩行に関わります。そのため、寝たきりの原因となってしまうことがあります。
認知症の悪化や歩行できないことによる全身状態への悪影響があります。
大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部の原因
外から衝撃が加わることで骨折します。
若い人でも交通事故等の強い衝撃で骨折することがあります。
高齢の方の場合は、骨粗鬆症などで骨の強度が下がっている場合、転倒のような弱い力でも骨折してしまうことがあります。
大腿骨頚部骨折の治療
通常、骨の表面には外骨膜があり、骨の癒合をする役割を果たしています。
しかし、関節包の中にある大腿骨頚部には外骨膜がないため、この部分は癒合しにくいのです。
そして、大腿骨頚部や大腿骨頭は回旋動脈という細い動脈で栄養が運ばれています。骨折と合わせてこの血管を損傷してしまうと、血流が阻害されてしまい、骨頭が壊死してしまいます。
骨頭が壊死してしまうと、大腿骨頭壊死症と同様、骨頭が潰れてしまい、痛みが強くなり歩行が困難になってしまうことがあります。
この場合は、人工関節に置き換える手術が選ばれることがあります。
大腿骨転子部骨折の治療
大腿骨転子部の骨折の場合は、頚部とは異なり、外骨膜や血行の良い筋肉などに囲まれているため、癒合の見込みがあります。しかし、癒合には数ヶ月を有することもあり、歩行は困難なため、ベッドで安静にする必要があります。
そのためよほどの手術が出来ない理由がない限り、早期のADLの向上とリハビリテーションの開始を目的に、90歳以上でも骨折から数日以内に手術を行うことがあります。
大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部の受診の目安
損傷箇所を確かめるためにも転倒などで強い力を受けた場合、速やかな受診をお勧めします。
まとめ:股関節は歩行に重要な役割を果たしているため、早く診療を受けましょう
歩くことは健康寿命を伸ばすために非常に重要です。股関節は直接的に歩行に関わるため、自己診断で満足せず早めに整形外科を受診するようにしましょう。